超自己満足小説
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樋口と約束をした日曜日の朝、和希はウキウキと鼻唄を歌いながら、出かける準備をしていた。
「ずいぶん楽しそうだな。」
純が眉をひそめて不機嫌に言う。
「うん。だって、映画見に行くの初めてだし。」
和希はお構いなく答える。
「そんなに行きたかったなら、連れてってやったのに。」
「よく言うよ。純は休みだっていうと、いつまでも寝てるじゃないか。」
和希は純を振り返り、「あれ?」と声をあげた。
「でかけるの?」
「ん、ああ、まあな。」
「めっずらしー。帰りは?遅くなる?」
「あ・・・う・・・お前は?」
言葉を濁す純。和希は気にも留めず返事をする。
「夕食までには帰るよ。」
準備を整え、「行ってきます。」
とドアへ向かう。一度振り返り、
「守によろしく。」
と言って、出て行った。
待ち合わせの場所に着くと、和希は辺りを見回した。
「まだみたいだな。」独り言をもらす。
五分も待たないうちに樋口が現れ、映画のチケットを手渡された。
「前売り?」
「そう。すっげえ混んでると思って、買っておいた。気にすんなよ、こっちから誘ったんだし。」
樋口はそう言うと、和希の肩を押した。
映画は話題作らしく、とても混んでいた。樋口は「指定で買っておいてよかったー。」と嬉しそうに言った。
「楽しかったよ、すごく。面白かった。」
「だろ?あれはやっぱ大画面で見るべきだよなー。」
遅めの昼食を摂りながら、二人は映画の感想を語り合った。
ふと手を止めて、和希が口を開いた。
「実はね、俺、映画館初めてだったんだ。」
「へ~え。ガキの頃とか、家族で来なかった?」
「うん。そういう家じゃなかったし。」
「俺んち、正月映画は欠かさず見に行ってたぜ。『団体行動』っつって。オヤジがうるさくてさあ。」
「ふうん。」
和希には『正月映画』の意味も分からなかったが、あいまいに頷いた。
「俺んち、ねーちゃんいるんだけど、門限7時だぜ?今どき高校生がそんなんでいいのかよって。」
「お姉さん、大事にされてんだよ。」
「そうかねー。俺、そんなんじゃ部活もできねえって言ってやったのよ。」
「樋口って中学のときもバスケ部だったの?」
「まあね。推薦ももらえたんだけど、遠い学校に行く気なくって。家から近い静学にしたってワケ。」
「推薦って、樋口そんなにうまかったの?」
和希は素直に驚き、疑問を口にした。
「ん、まあ、そこそこ。でも、バスケで食っていけるはずねえし、いいんだよ別に。」
その言葉が、少しだけ引っかかった。
樋口も、将来のことを考えたりするんだ。
俺は、自分の居場所のことしか考えていなくて、やりたいこと、好きなこと、なんて、考えたことなかったな。
・・・俺には、なにがあるんだろう・・・。
「悪りい。俺、なんかまずいこと言った?」
樋口が、心配そうに覗き込んだ。
「ううん。」
和希はコーヒーに手を伸ばし、飲みかけてふと手を止めた。
「でもさ、好きなことがあるって、いいね。」
「好きなこと?」
「将来に結びつかなくても、好きなことがあるって、幸せだよ。」
「そうかな。」
そうだよ。俺には何もないから・・・。
飲みかけたコーヒーに、再び口をつけ、和希は小さくため息をついた。
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「ずいぶん楽しそうだな。」
純が眉をひそめて不機嫌に言う。
「うん。だって、映画見に行くの初めてだし。」
和希はお構いなく答える。
「そんなに行きたかったなら、連れてってやったのに。」
「よく言うよ。純は休みだっていうと、いつまでも寝てるじゃないか。」
和希は純を振り返り、「あれ?」と声をあげた。
「でかけるの?」
「ん、ああ、まあな。」
「めっずらしー。帰りは?遅くなる?」
「あ・・・う・・・お前は?」
言葉を濁す純。和希は気にも留めず返事をする。
「夕食までには帰るよ。」
準備を整え、「行ってきます。」
とドアへ向かう。一度振り返り、
「守によろしく。」
と言って、出て行った。
待ち合わせの場所に着くと、和希は辺りを見回した。
「まだみたいだな。」独り言をもらす。
五分も待たないうちに樋口が現れ、映画のチケットを手渡された。
「前売り?」
「そう。すっげえ混んでると思って、買っておいた。気にすんなよ、こっちから誘ったんだし。」
樋口はそう言うと、和希の肩を押した。
映画は話題作らしく、とても混んでいた。樋口は「指定で買っておいてよかったー。」と嬉しそうに言った。
「楽しかったよ、すごく。面白かった。」
「だろ?あれはやっぱ大画面で見るべきだよなー。」
遅めの昼食を摂りながら、二人は映画の感想を語り合った。
ふと手を止めて、和希が口を開いた。
「実はね、俺、映画館初めてだったんだ。」
「へ~え。ガキの頃とか、家族で来なかった?」
「うん。そういう家じゃなかったし。」
「俺んち、正月映画は欠かさず見に行ってたぜ。『団体行動』っつって。オヤジがうるさくてさあ。」
「ふうん。」
和希には『正月映画』の意味も分からなかったが、あいまいに頷いた。
「俺んち、ねーちゃんいるんだけど、門限7時だぜ?今どき高校生がそんなんでいいのかよって。」
「お姉さん、大事にされてんだよ。」
「そうかねー。俺、そんなんじゃ部活もできねえって言ってやったのよ。」
「樋口って中学のときもバスケ部だったの?」
「まあね。推薦ももらえたんだけど、遠い学校に行く気なくって。家から近い静学にしたってワケ。」
「推薦って、樋口そんなにうまかったの?」
和希は素直に驚き、疑問を口にした。
「ん、まあ、そこそこ。でも、バスケで食っていけるはずねえし、いいんだよ別に。」
その言葉が、少しだけ引っかかった。
樋口も、将来のことを考えたりするんだ。
俺は、自分の居場所のことしか考えていなくて、やりたいこと、好きなこと、なんて、考えたことなかったな。
・・・俺には、なにがあるんだろう・・・。
「悪りい。俺、なんかまずいこと言った?」
樋口が、心配そうに覗き込んだ。
「ううん。」
和希はコーヒーに手を伸ばし、飲みかけてふと手を止めた。
「でもさ、好きなことがあるって、いいね。」
「好きなこと?」
「将来に結びつかなくても、好きなことがあるって、幸せだよ。」
「そうかな。」
そうだよ。俺には何もないから・・・。
飲みかけたコーヒーに、再び口をつけ、和希は小さくため息をついた。
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プロフィール
HN:
綾部 叶多
性別:
非公開