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教室に足を踏み入れた途端、純は絶句した。
「お前・・・なんだその格好。」
目の前には、レトロなドレスを身に纏った和希の姿。
「あ、これ?衣装だよ。・・・変?」
変とかそう意味ではなくて・・・。
「どお?渾身の作。和希に似合ってるでしょ。」
衣装係が嬉しそうに話す。
「・・・似合ってなくもないが。」
「あのさあ、純。俺だって恥ずかしいんだよ?でも去年よりましだよね。」
確かに、去年は客引きのためといって着ぐるみを着せられ、耳まで付けられていた。
「人間なだけ、ましだよ。」
そう言ってケラケラ笑う。
・・・ったく、なんで自分からばらすような事をするんだ・・・。
純は呆れた顔で、ドレス姿の和希を見ていた。
「意外と分かんないかと思って。」
和希はまだ言い訳をしている。
「そんなに怒んないでよ。前田がどうしても俺にって言うから。」
確かに。
一組でジュリエットを演じられそうなのは和希だけだ。
「ロミオは?」
「前田がやるって。もうやる気マンマンだよ。ていうか、自分がやりたかったんじゃない?」
役者志望だという前田貢は、脚本・演出を買って出た上、主役まで演じるという。
「というわけで、読み合わせ手伝って。」
「なんで俺が。」
「純だって同じクラスじゃないか。サッカーあるから係免れたけど、それくらい協力してよね。」
「守は?」
「守は実行委。よって、ヒマな純に決定!」
「ヒマじゃねえよ。」
ブツブツ言いながらも、台本を手に取り、練習に付き合う。
「あはは。毎晩やったら、台詞覚えちゃいそうだね。」
誰が覚えるもんか、こんなこっぱずかしい台詞。
純は心の中で舌打ちした。
前田演出家は鬼であった。
「こるぁ~、もっと感情込めろ!」
「無理だよぉ、俺ら素人だしぃ~。」
「演劇をなめてんじゃねえ!!」
毎日このような怒声が飛び交う。
「ちょっと、和希は怪我したら困るから、練習は代役でね。」
「ええ?いいの?じゃ、よろしくね三上。」
背格好が似ている三上に白羽の矢が立った。
「ひえ~~、む、無理っす。」
「ええいうるさい!ごちゃごちゃ言わず、飛び下りろ!!」
「ぎゃ~~!!」
何度も駆け落ち(窓から飛び降りて逃亡)のシーンをさせられて、痣だらけになる三上。
「ごめん三上。俺、やっぱり自分でやるよ。」
「マジ?じゃ、次から・・・」
「だめ。和希は本番で。」
「えええ??そんなあ・・・。」
三上の痣は、増える一方であった。
「演劇って、文化系じゃなくて体育会系だったんだね・・・。」