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口元を拭うため、手洗いへ向かった。
顔を冷水で洗ってタオルで拭い、洗面所のドアを開けると、守が立っていた。
「あ、お疲れさま。」
まだ制服のままの守は、後夜祭の片づけを終えて、今帰ってきたようだ。
「ああ、お疲れ様。部屋にいなかったから、どこかなと思って。」
和希を探していたんだ、と守は言った。
「劇、大変だったんだってね。」
「うん、前田が途中でいなくなっちゃってさ・・・って、守見てなかったの?」
「途中までは見ていたんだけど、呼ばれちゃって。」
「そっか・・・。」
じゃあ、アレは見られてないんだ、と安心する。途端に先ほどの濃厚なキスを思い出した。
「?」
守が不信そうに覗きこむ。
和希の顔が赤い。
・・・見ていたよ、最後まで。
舞台裏に行って和希の姿を見たら、純を殴りそうだったんだ。
樋口が割りこんできたので助かったよ。
・・・その時と、同じ顔をしているね。
「どうかした?」
守はそれだけ尋ねた。
「ううん。」
和希は首を横に振った。
「大変だったでしょ、生徒会長さん。」
「文化祭は実行委員会が主体だからね。サポートするだけ。」
「ふうん、でもやっぱり守はすごいや。人の上に立つのが向いてる。」
「そんなことないって。」
「俺には無理。純なんて、もっと無理。自己中だもん。」
くすくすっと笑う。
純の名が出た瞬間の、守の表情には気付かなかった。
「・・・和希。」
なぁにと振り返る和希の頬を、守は両手を伸ばして挟んだ。
そのまま上を向かせ、目を合わせる。
「・・・なに?」
疑問を浮かべて見上げる。守は黙ったまま。
・・・この唇が、触れられた・・・
ふぅとため息をひとつつき、守は手を離した。
部屋に入って自分の椅子に座る。
・・・なんだったんだ?守は。
またキスされるのかと思った。
されてたら、俺は拒まなかった?
答えは、分からない。
純が二階で寝息を立てている。
さっき、なんであんなことしたんだろう。
俺をからかっているんだ、きっと。
純が思うような他の女の子と同様に、俺もカンタンだって。
くらくらした。
ぼーっとして、足に力が入らなくなって。
嫌な感じではなかったけど、純の気持ちが分からないから、素直に受け入れられないんだ。
もう寝よう、考えても無駄だ。
人の気持ちなんて、分かるはずがない。
音がしないように静かにドアを閉めて、守はまたため息をひとつついた。
同室の圭太が、机に向かっている。
「お疲れ。」
振り向きもせず、圭太が言った。
「ん、お疲れ。」
部屋着に着替え、風呂の準備をする。
「またため息か。お前最近多いな。空気薄いか?」
「いや、そうじゃないけど・・・。そう?多いかな?」
「数えてみれば?」
圭太は目線だけ守に向けた。
「色恋の話なら、俺は相談相手にならないからな。」
「分かってます。」
「お前でもそんな風になるんだな。厄介なもんだ。」
「・・・色恋だと肯定してないけど。」
守は苦笑した。
出してないつもりでも、気持ちがあふれているようだ。
疎い圭太にも分かってしまうなんて。
それじゃあ、さっきの黒い気持ちも?
分かるヤツには分かってしまうのかもしれない。
・・・いちばん分かって欲しい人には伝わらないで。
「風呂入ってくるよ。」
守は部屋を後にした。
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