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目の前の女が泣いている。
「ごめんなさい・・・純・・・」
「・・・ふざけんな!!」
「私が・・・私が弱かったから・・・。」
なぜ父が、自分を見ないのかが分かった。
自分の血を分けた子じゃないからだ。
それまで、何とか眼に入れて欲しくて、ずっとがんばってきた。
「無駄だったって事か・・・。」
純は自嘲した。
いくら努力していい選手になっても、U15に召集されたとしても、妻が浮気をしてできた子なんて認められるわけがない。
「・・くそ!!」
足元にあったクッションを蹴り上げる。
リビングの窓にぶつかり、ガラスが砕け散った。
「純!!」
・・・俺にも、サッカーしかなかった。
自分を認めてもらう手段が。
だが、このザマはなんだ?
「てめーももう母親じゃねえ。」
泣いてすがる母親の手を払いのけ、玄関に向かった。
「もう、二度と帰らねえからな。」
・・・気配がする。
誰かがそこにいる気配が。
純は自分が眠っていたことに気付き、ゆっくりと目を開けた。
眼前に、すやすやと眠るあどけない顔。
長い睫毛が影を作っている。
・・・なんでこいつが、ここにいるんだ?
「・・・おい。」
少女は目を開けない。
「襲うぞこら。」
「んんん・・・」
「そうか、いいんだな?」
唇を指でなぞる。
ふっくらとした感触。
昨日、劇に引っ張り出されて、無理やりキスシーンをやらされた。
その感触をもう一度味わいたくなり、お礼と称して唇を奪った。
「ちゃんと女じゃねーか。」
ふっと顔が綻ぶ。
抱き寄せた肩も腰も、細くて柔らかくて。
と、和希が小さく震えた。
「・・・たく、しょうがねーな・・・」
布団のなかに引き入れ、腕の中に抱き込む。
「これで寒くないだろ。」
俺は面倒を見るつもりはない。
最初に言ったはずだ。
なのになぜ、こいつのことばかり見ている?
部に復帰して、いちばん喜んでくれたのはこいつだ。
見たい、と言ってくれた姿を、もっと見せてやる。
だからもっと、俺を見ろ。
「ちゃんと見てろよ・・・」
和希のまぶたに、唇を落とした。
「お前は猫か。」
「寒くて・・・つい・・・。」
和希はしょぼんとうなだれて、純の前に座っていた。
「・・・純て、ぬくぬく・・・」
しょーがねぇと呟きながら、ネクタイを締める。
「気をつけろよ。」
「なにを?」
「襲われねえように。」
「おそ・・・?」
ワケが分からない、といった顔で見上げてくる。
純は嫌そうな顔をした。
「もういい。行くぞ。」
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