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「さあ、気合入れていこうぜ!」
いよいよ本番。
一時間前から控え室である空き教室に入って、衣装に着替える。
「・・・あれ?前田は?」
「さーあ、トイレじゃね?」
しばらくして戻ってきた前田の顔は、真っ青。
「ど、どうしたの?」
「いや・・・ちょっと・・・腹の調子が・・・。」
前田はお腹を押さえてうずくまっている。
「俺、本番に弱いんだよね・・・。」
「本番に弱いって、致命傷だな。」
いつもオーディションになると体調を崩す前田は、その美麗な容姿を活かしたことがなかった。
「もうすぐだからさあ。がんばろうよ。」
励まされて舞台に立つ。
幕が上がり、劇は順調に進む。
だが舞台裏では混乱が起きていた。
「やっべえ、前田が消えた。」
「うそ!どうすんだよ。」
「衣装脱ぎ捨ててある。誰か代役できねえ?」
「台詞覚えてるヤツ!」
劇はクライマックスに差しかかる。
ジュリエットは薬を飲んで、ばったりと倒れた。
横たわるジュリエット。
「急げよ!」
大急ぎで衣装を着せられた、代理ロミオが登場。
「『ああ、遅すぎたか・・・・』」
あれ?この声、前田じゃない・・・。
和希は薄目を開けて見ようとしたが、ライトで逆光になっていて見えない。
「『ジュリエット・・・愛してる・・・。』」
「?!」
練習ではなかった感触に驚いて目を開く。
・・・純、本当にキスした・・・。
「うわ!ジュリエットが目え覚ました!」
客席から声が飛ぶ。
「な、なに起きてんだよ!話変わっちまうじゃねえか。」
「あああ、俺の脚本が~~!」
「前田、今頃戻ってきても遅い!!」
照明係や音響係の機転で、アナウンスが流れる。
『ロミオのキスで、ジュリエットは目覚め、二人は幸せに暮らしました♪』
慌ただしく幕が下りる。
拍手の中、純は気がついた。
「・・・和希?なに泣いてんだよ。」
「だって・・・」
「何だよ、台本通りやれって言ったじゃねーか。」
「本当にはしないんだよ・・・。」
「・・・そんなに嫌だったか・・・。悪かったよ。」
「ちが・・・そうじゃなくて・・・」
樋口が駆け込んでくる。
「こら!純!!てめえ・・・と、和希?おおお、かわいそうに。男に唇奪われちゃって・・・。」
ひしっと抱きしめ、ぽんぽんと背中を叩く。
「おい純!後で覚えとけよ!」
「・・・何を覚えとくんだか・・・。」
和希を連れ去る後姿を、純はため息をつきながら見送った。
部屋に戻った和希は、また純に謝られた。
「もういいって。」
和希は少し照れたように笑った。
「それより、代役ありがとう。ラスト変わっちゃったけど、大成功だったし。何かお礼しようか?」
「お礼か・・・。」
そうだなと少し考えて、思いつく。
「キス、してくれ。」
「は?もうしたじゃない。」
「あれは役でだろ。お前から、キスしてくれ。」
「・・・。」
「嫌?」
「・・・嫌とかじゃなくて・・・。」
仕方ないなあと純に向き合う。
「座ってよ、届かない。」
椅子に座らせ、唇を頬に触れさせる。
「・・・そこじゃない。」
途端に純は顔の向きを変え、手を伸ばして和希の頭を固定する。
「んんっ」
「キスはこうするんだ。」
「んくっっ・・・」
純は深く深く入り込んで、和希の舌をとらえる。
「かは!苦し・・・。」
息継ぎさせるために唇を離した途端、和希は純の胸を押した。
「ば・・・純のばか!!」
その顔は真っ赤になっている。
純は唾液で濡れている和希の口の周りをぬぐうと、にやりと笑った。
「お疲れさま。」
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