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店でもめていたらしく、買出し組はまだ買い物を済ませていなかった。
「遅いぞ、なにやってたんだ?」
「・・・酒なんか買うんじゃねえ。」
「えぇ~、純、固いなあ。」
「ったりめーだ。出場停止にだけはなりたくねえ。」
宮城純は、去年サッカー部に復帰したばかりなので問題を起こしたくないらしい。
不機嫌に棚に酒瓶をもどす宮城。
こいつ、去年初めて会ったときは、めちゃめちゃ素行悪くて有名だったのに。
変わるもんだな。
樋口は不機嫌顔の純を横目で見ながら、店の床に置かれたかごを拾い上げた。
「純、和希一人で待たせちゃってるから、早くしよう。」
守に言われた純は、急いで会計に向った。
桜並木を歩いていくと、ちらちら花びらが舞っているのが目に付いた。
今年の桜も、もう終わりだな。
樋口は一年前の入学式を思い出した。
すっごい美人さんを発見したと思ったのに、よく考えたらここは男子校で、そいつは男だった。
それが九条和希だった。
和希は無邪気に笑い、俺を友達だと言い、今が一番幸せだと言った。
和希には、なにやら秘密があるようだ。
それが何か、まだ教えてもらってないが、樋口は和希をとても大事な友達だと思っている。
魅かれているんだ、彼に。
時折見せる表情や、心に響く言葉に。
自分はいい加減な人間だったけど、和希のおかげで頑張るってことを知った。
和希のおかげで、思いやるってことも知った。
初めて誰かを、大切にしたいって思った。
大事な親友だよ、あいつは。
樋口はまた、大好きな笑顔を思い浮かべていた。
いつの間にか、純、守、樋口の三人は並んで歩いていた。
樋口はちらりと二人の顔を盗み見た。
俺よりも和希に近いポジションにいるこいつら。
きっと和希の“秘密”も知ってるんだろうな。
「・・・お前、成績よかったんだな。」
不意に純が樋口に話しかけてきた。
「まあな。」
樋口はそっけなく返した。
本当はすっげえ頑張ったぜ、なんてゼッタイ言うもんか!!
「和希をどう思ってるか知らねえが、今以上の関係になろうと思うなよ。」
「あ?」
眉間にしわよってるよな、俺。
樋口が睨むように純を見ると、純はフンッと笑って言った。
「少なくとも、あいつは望んでねえと思うがな。」
「・・・んなこと、分かんねえじゃねえか。」
「ま、お前が全部まとめて面倒見るってなら話は別だが。・・・お前、長男か?」
「そうだけど。それが何だよ。」
「ムコにいけねえな。」
ムコって・・・婿?なんでそんなのが出て来るんだ?
純はまたふんっと鼻で笑って、樋口の顔を見て言った。
「俺も守も、和希がお前と仲良くしたいっていうのを尊重してる。お前のこと、認めてんだよ。」
「なんだよ、偉そうに。」
守が割って入ってきた。
「でも純の言ってることは間違ってないね。和希を受け止めるのはきっと大変だ。そのうち本人が話すと言ってたと思うけど、その時になって『裏切られた!』なんて思わないでほしいな。」
樋口の頭には???がいっぱいだった。
「それって、アレか。『友達辞めないで』って、和希が言ってた、アレか?」
樋口は混乱しながらも聞き返した。
守は軽く笑って「そう」と答えた。
「それから、和希の友達なら、俺らも友達ってことで。」
守は樋口に下の名前で呼ぶように、と言った。
純のことも。
守、に、純、か。
「樋口は・・・・」
守が少し考えて言った。
「いいか、そのままで。和希も『樋口』だしね。」
・・・俺としては、「かなめ」って呼んでほしいんだけど。
そんな樋口の思いも虚しく、苗字呼び捨てが定着してしまったようだ。
そんな話をしているうちに、シートを広げた場所へと到着した。
「・・・れ?和希は?」
樋口は辺りを見回して、和希の姿を探した。
大きく広げてあったはずのシートはめくれ、グレーの塊になっている。
ガサガサとその塊をほぐすと、小さく丸まった少年が姿を現した。
「・・・マジ寝してやがる・・・。」
純がめんどくさそうに和希の頬をつつく。
「おい、起きろ。」
「ふ・・・あ・・・」
「こんなとこで寝てんじゃねえよ。起きろ。」
「・・・れ・・・じゅ・・ん?」
いまだ夢の中といった顔の和希は、視点の定まらないぼんやりとした目で純を見上げた。
樋口の胸が、ドキンと高鳴った。
うわ・・・寝惚けてる。すげえかわいいんですけど。
「花びらだらけじゃねえか、埋もれてんぞ。」
「あ・・・う、俺、寝てた・・・?」
恥ずかしそうにニッコリ微笑う和希。
シートの上に散った花びらと共に包まれて、和希は花の精のようだった。
純は和希の髪に付いた花びらを指先で払い、愛しげな笑みを見せた。
途端に樋口の表情が驚きに変わる。
なんだその表情は!!
俺らの前にいる時と、全然違うじゃねーか!!
「お前らってそーゆう関係??」
心でしゃべったつもりが、声になって出てしまっていたようだ。
樋口の後ろから、守が近付いてきて言った。
「すっごく仲のいい友達の延長線にいるよ。・・・今はね。」
「え?」
「堕ちないやつはいないでしょ。」
守は意味深な言葉を残して、和希のほうへ向かっていった。
「和希、こんなところでひとりで寝てたら危ないだろ。気をつけないと。」
守まで、愛おしそうに頭を撫でてる!!
・・・和希に狂わされてるのは、俺だけじゃないんだ。
なんだかホッとしたのもつかの間、樋口は「しまった!」と声をあげた。
「これが男子校の罠か!!やられた!!」
強い風が吹き、花びらが吹き飛ぶ。
風の中に、ほろ苦い桜の香りが混じる。
この先の人生を棒に振ることはできないよな・・・。
「彼女でもつくろうかな・・・。」
樋口の呟きは、微妙に寒い春の風に吹き消されていった。
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