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「すぐ用意しろ、行くぞ。」
「え?どこへ?」
「時間がない。早くついて来い。」
そのまま電車に駆け込み、ふうと息をつく。
「どこ行くの?」
「空港。」
「空港?・・・て、まさか。」
「今日に変更になったそうだ。飛行機が取れなかったとかで。」
和希は悔しそうに俯いたまま、呟いた。
「ほんと、どこまで内緒にするつもりだったんだ・・・。」
純は和希の肩を引き寄せると、言った。
「・・・あいつなりに、考えてしたことだろうから。」
和希は無言のまま、純の顔を見上げた。
そしてそのまま視線を窓の外に移し、到着するまで眺めていた。
「まもる!!」
聞きなれた声がした。
だが守は空耳だと思った。
「守!!」
再び響く声。
守はゆっくり声のした方向へ目を向けた。
和希が息を切らして駆けてくる。
「・・・良かった、間に合った!」
呼吸を整え、和希が顔を上げる。
あとから追ってきた純は、「飲み物を買いに行く」といってその場を離れた。
「変更になったんなら、教えてくれたっていいじゃないか。」
ちょっとふて腐れた顔をしたが、今はそんなことを言っている場合じゃない、と思い返して、自分の身につけていたものを渡した。
「はい、これ。」
「?」
マフラーだった。
「パリって寒いんだってね。だから、これ。」
そういって微笑むと、首に回した。
「元気でね。がんばってね。」
「うん」
「メール、待ってるから。」
「・・・ん。」
守は微笑んだまま和希の肩に手を乗せた。
しばらく見つめ合う二人。
ふいに守はその手を背中に回し、和希の体を抱きしめた。
「ちょ・・・・守?」
「ごめん、少し・・・少しだけ・・・。」
腕の中の和希は動きを止め、守の呼吸を聞いていた。
身体を離した守は、和希の頭を撫でると、戻ってきた純に向かって言った。
「・・・和希を、頼む。」
「ああ。」
搭乗口から姿が見えなくなるまで見送って、和希と純は帰りの電車に乗った。
「淋しくなっちゃうね・・・。」
「そうだな・・・。」
和希は珍しく自分から身を寄せてきて、純の胸に額をくっつけた。
純はずっと、背中を撫でていた。
ベルト解除の知らせを受け、守は足を伸ばした。
マフラーをしているのを見たFAがブランケットを手にしてやってきたが、守はそれを受け取らなかった。
・・・和希・・・。
触れたらきっと、離れられなくなってしまう。
そう思って、留学を決めてから必要以上に会うことも避けていた。
空港で、目の前に飛び込んできた瞬間、我慢が崩れ、この腕に抱きしめていた。
和希・・・。
その温もりも、匂いも、忘れられる日が来るのだろうか・・・。
マフラーに残る甘い匂い。
少し長く息を吸い込むと、守は目を閉じた。
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