[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
借りていた本を読み終えたので、図書室に向かった。
受付にいた図書委員は和希を見ると、「すぐ戻ってくるから」と言って席を外した。
和希はこないだ目をつけておいた本が置いてある棚に向かい、手を伸ばした。
「先輩。」
背後から声をかけられる。
「ああ、池田君か。」
「先輩、宮城純と付き合ってんの?」
唐突に聞かれ、和希は驚いた声をあげた。
「え?なに言ってんの?男同士だよ、俺たち。」
池田はくすくすと笑いながら、間を詰めてきた。
「俺、知ってるんだよね、あんたの秘密。」
一瞬、何を言われているのか理解できなかった和希は、目を見開いて池田の顔を凝視した。
「は・・・なに・・・」
「なんで、みんな気付かないのかね。」
池田はさらに近づいてくる。
「こうして触ると、ますます男の体じゃないって判るよね。」
そう言いながら、和希の手首を掴んで、壁に押し付けた。
口元は笑っているが、目は笑っていない。
和希は目を逸らすことができなかった。
「いた・・・。」
「俺、あんたと宮城純がいちゃついてるとこ、見ちゃったんだ。」
あごに手をかけ、顔を固定する。
「付き合ってるわけじゃないなら、俺にもチャンスくれない?」
「な・・・。離せ。」
「思ったより、気が強いんだ。ふうん。」
「離せって言ってるだろ。」
「秘密、ばらされたくないでしょ?」
「離せよ!」
和希は手首をねじって振りほどこうとした。
「無理だよ。女のあんたに、かなうわけがない。」
「!!」
何で知ってるんだ?聞こうとするが声が出ない。
ガラガラと扉の開く音がして、樋口の呼ぶ声が聞こえた。
「か~ずき~?」
ふいっと池田は手を離し、薄笑いを浮かべたまま和希に言った。
「話はまた今度ね。九条先輩。」
和希を見つけた樋口は、いつもと様子が違うことに気付き、心配そうに顔を覗いた。
「どうした?顔色悪くない?」
「あ、うん・・・。純、知らない?」
「まだ教室にいると思うけど・・・」
最後まで聞かずに、図書室を飛び出した。
「純!!」
姿を見つけ、急いで駆け寄った。
そのまま手をとり、屋上へ向かう。
誰もいないところへ。
「どうしよう、どうしよう!」
「ああ?」
「俺のこと、知られちゃった!あいつ、知ってるって!どうしよう!!」
「待てよ、落ち着け。最初から話せ。」
「ああもう!純が所かまわずしてくるから!!」
「・・・なんだよ、俺のせいかよ。」
和希の話を聞いた純は、そっと頭に手を載せて言った。
「池田がどこまで知っているか聞いてきてやる。お前は何も心配しなくていい。」
「でも・・・」
「お前を守るって、約束したからな。」
そう言って和希の頬をつまみ、くすりと笑った。
それからしばらく経ったが、誰も何も言わないところをみると池田は言いふらしたりしていないようだ。
しかし純も和希も、池田の姿を見つけることはできなかった。
部にも顔を出さないので、同じクラスだという一年に聞いてみた。
「なんか、休学するって話ですよ。」
その話を脇で聞いていた二年の長野が、口を挟んできた。
「池田、また具合悪くなっちゃったんすかね?」
「長野知ってるのか?」
「池田って留年組なんすよ。ホントは二年なんですけど、去年もほとんど来てなくて。部活入るくらいだからもう大丈夫なのかと思ってたんすけどね。」
「大丈夫って・・・どこか悪いの?」
「よく知んないすけど、心臓がどうとか言ってましたよ。」
「・・・そうなんだ・・・。」
純と和希は顔を見合わせ、長野に礼を言うと部室を出た。
翌日、一年の部員が「池田、退学したらしいですよ。」と言ってきた。
和希はホッと胸をなでおろしたが、少しだけ残った不安感は消えなかった。
BACK NEXT