超自己満足小説
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12月23日。
クリスマス・イヴには一日早いけど、働く女子としては恋人と過ごすために設けられたような祝日。
私も、半年前に付き合い始めたカレシと甘~い一日を過ごす・・・はずだったのに!!
神サマ。
なぜ私は独りで夕暮れ時の街を歩いているのでしょう。
にわかに降り出した雨が、先日買ったばかりのスウェードのブーツを濡らす。
ああもう、ただでさえお手入れが大変なのに!
雫で水玉模様になっちゃうの、確定。
天気予報では、夕方から雨が降るって言ってたけど。
今夜はきっとお泊りだし、明日には止むからこんなカッコでも大丈夫って、高をくくってたの。
そうだ、ルミエールのケーキ、予約してあったのよ。
雑誌に載ってた、イケメンパティシエが造る、オリジナルケーキって。
何度も下見に行って、味を確かめて。
あそこはクリームも美味しいけど、チョコが最高なのよね。
ほとんどのケーキを試しちゃったわ。
「きっと今年は、君と二人きりで過ごす最後のクリスマスになるよ。」
なんて言うから、
(ヤダ♪クリスマスにプロポーズ?そして来年には結婚?)
なんて。
私一人で先走ってたなんて・・・
「最後のって、そういうことだったんだ・・・。」
つい今しがたの光景。
傍から見れば、修羅場?
待ち合わせのカフェに現れた彼。
なんだかそわそわして、「早く出よう」ってせかすから。
あらいやね、そんなに待てないの?なんて、口に出そうとしたその時。
背後から、彼の名を呼ぶ声。
「その女、誰?」
ちょっと、そっちこそ誰?
ひょっとして彼の浮気相手?
ごめんねダーリン、近頃ちょっと忙しくしちゃって、なかなか会えなかったものね。
いいのよ、私は心の広い女。
一度や二度の浮気ぐらい、大目に見てやるわよ。
でも、彼から出た言葉に、私、耳を疑ったわ。
「いや、その、この人は、違うんだミナコ!!」
ちょっとあんた。
弁解する相手が違うんじゃなくって?
彼は私の腕を振りほどき、彼女の元へと駆け寄った。
「ミナコ!愛しているのは君だけだ!!」
目の前の出来事に、呆然とする私。
何これ、昼ドラの撮影?
分かった。
二人が仕組んだドッキリなんでしょう?
抱き合う二人に見入っていると、私の存在すら忘れたカレシは彼女の肩を抱いて立ち去った・・・。
瞬きすら忘れていたことに気付いた私。
目が、目が乾ききって痛いんですけど・・・。
そんな私の上に、雨粒が舞い落ちて来たの・・・。
肩を叩かれた。
振り返った私。
腰を抜かしそうになったわ。
だってそこにいたのは・・・
「ギャッ!!クマ?!」
気持ち的には3メートルは飛んだ感じ。
「な、なに?!驚かせないでよ!!」
サンタの格好をしたそのクマは、私の頭2つ分は高いから、小首をかしげるしぐさも可愛らしいとは言い難い。
後ろのケーキ屋の店先にテーブルを出し、ケーキが並んでいる。
「ああなるほど、ケーキを売ってるのね、ご苦労様。」
クマは身振り手振りで何かを伝えようとする。
「あのね、ケーキはもういらないの。食べる相手もいないの。予約しちゃってあるけど、キャンセルさせてもらうわ。」
クマのジェスチャーがいっそう激しくなる。
「ちょっと、ぜんぜん意味わかんないんだけど。」
クマ語なんて私知らないもの。
無視して行こうとすると、コートの襟を掴まれた。
「や、引っ張んないで!」
ファーが取れちゃう。これも買ったばかりだったのに。
私はよたよたと引っ張られる方向に足を出して、クマに抗議した。
「ケーキはいらないの。用済みなの。余っちゃってもったいないけど、他の人に売ってくれる?分かったわよ、お金は払うから!それなら文句無いでしょう?」
私の抵抗もむなしく、店内に押し込められる。
「どうぞ。」
クマは客用の椅子を引くと、私に座るよう促した。
「なんだ、喋れるんじゃないの。」
こうなったらこのクマさんに付き合ってやるか。
私がしぶしぶ座るのを確かめると、クマは店の奥からお皿に乗せたケーキを持って現れた。
「どうぞ。」
クマは私の前に座って、頬杖をついた。
「苦しくないの?取ったらどう?」
「いいから食べて。」
「・・・・・。」
クマに勧められて、フォークに手を伸ばす。
ぴりぴり。
ケーキを囲ってあるペーパーをなんとなく丁寧に取り外して、ど真ん中に乗ったホワイトチョコの飾りにフォークを突き刺した。
「あっはは。そっからいくんだ。」
「うるさいわね、どこからだっていいでしょう?」
「ごめんごめん。」
チョコはすんなりとのどを通る。
続けて本体へ。
ぱりっ。
コーティングされたチョコが、音を立てて割れた。
「ふうん。」
いちいち反応しなくても。
私が口に含むのを見て、クマは覗き込むように首をかしげた・・・と思う。
「どう?」
「・・・美味しい。」
「良かった。」
クマはほっとしたように息を小さく吐いた。
「それ、俺が造ったんだ。」
「へえ、あなたが。」
すごく美味しい。
ごく普通のチョコケーキに見えたけど、フランボワーズの酸味が利いてて、チョコの甘みと相性バッチリって感じね。
上に添えてある控えめなクリームが絶妙。
このチョコ、どこかで食べたことあるような味だけど、良くあるものなのかしら?
「うん、美味しい、すごく。」
甘いもの食べると、ほんとに幸せになれるね。
私、クマに向かって笑いかけた。
「ありがとう、こんなに美味しいもの、造ってくれて。」
心から、感謝した。
「ふう~、やっぱ脱いでいい?」
突然クマは立ち上がり、首をコキコキと鳴らした。
「だからさっき言ったじゃないの。脱げば?」
よっこいしょ、とオヤジみたいな口調で両手を両耳の辺りに当てて、ずずず・・・と首を引っ張り始めた。
私は手を止めて、じっとその姿を観察したわ。
こんな日に、クマなんか被ってケーキ売ってるんだもの。
悪いけど、どうせたいした顔じゃないわ・・・よ・・・ね?
「ふわ~~、あちい。冬でもきついなこりゃ。あれ?どうしちゃったの?手、止まってるよ?」
ついでに口も、いえ、身体全体が、でしょう?
「あ、あの、あなた・・・。」
「どれ?あんまり美味しくなかった?君が好きそうなの、入れてみたんだけどなあ・・・。」
不安そうに私の顔を見る。
いやっ、そんなに近寄らないで!
自分の顔がぶわっと熱くなるのが分かったの。
「あれれ?すごく驚いてる?」
「そりゃ、もう、その・・・。」
「何で分かるかって?だって、何度も来てくれたでしょう?うちの店に。一口食べるたびに、すっごくうれしそうな顔してくれて。俺が造ったケーキ、こんなに美味しそうに食べてくれるんだって、本当に嬉しかったんだから。」
彼の顔がキラキラして見えるのは、汗が光ってるから、だけじゃないよね?
「クマ・・・。」
「これ?うん、雑誌載っちゃったら、面が割れちゃってね。こうしないと仕事にならなくって。」
だけど私が予約したのは、ルミエールの・・・。
「ここ、俺の実家。親父の店。今はまだ修行中だから、ルミエールで働いてるの。いつかここに帰ってきて、この店をおっきくしてみせるからね。」
だからまた、食べに来てよ。
彼はそう言って、私の頬に触れた。
「チョコ、付いてる。」
ぺろり、と指先を舐める。
「君の名前、教えてもらってもいい?」
私は予約票のお客様控えを差し出した。
END
クリスマス・イヴには一日早いけど、働く女子としては恋人と過ごすために設けられたような祝日。
私も、半年前に付き合い始めたカレシと甘~い一日を過ごす・・・はずだったのに!!
神サマ。
なぜ私は独りで夕暮れ時の街を歩いているのでしょう。
にわかに降り出した雨が、先日買ったばかりのスウェードのブーツを濡らす。
ああもう、ただでさえお手入れが大変なのに!
雫で水玉模様になっちゃうの、確定。
天気予報では、夕方から雨が降るって言ってたけど。
今夜はきっとお泊りだし、明日には止むからこんなカッコでも大丈夫って、高をくくってたの。
そうだ、ルミエールのケーキ、予約してあったのよ。
雑誌に載ってた、イケメンパティシエが造る、オリジナルケーキって。
何度も下見に行って、味を確かめて。
あそこはクリームも美味しいけど、チョコが最高なのよね。
ほとんどのケーキを試しちゃったわ。
「きっと今年は、君と二人きりで過ごす最後のクリスマスになるよ。」
なんて言うから、
(ヤダ♪クリスマスにプロポーズ?そして来年には結婚?)
なんて。
私一人で先走ってたなんて・・・
「最後のって、そういうことだったんだ・・・。」
つい今しがたの光景。
傍から見れば、修羅場?
待ち合わせのカフェに現れた彼。
なんだかそわそわして、「早く出よう」ってせかすから。
あらいやね、そんなに待てないの?なんて、口に出そうとしたその時。
背後から、彼の名を呼ぶ声。
「その女、誰?」
ちょっと、そっちこそ誰?
ひょっとして彼の浮気相手?
ごめんねダーリン、近頃ちょっと忙しくしちゃって、なかなか会えなかったものね。
いいのよ、私は心の広い女。
一度や二度の浮気ぐらい、大目に見てやるわよ。
でも、彼から出た言葉に、私、耳を疑ったわ。
「いや、その、この人は、違うんだミナコ!!」
ちょっとあんた。
弁解する相手が違うんじゃなくって?
彼は私の腕を振りほどき、彼女の元へと駆け寄った。
「ミナコ!愛しているのは君だけだ!!」
目の前の出来事に、呆然とする私。
何これ、昼ドラの撮影?
分かった。
二人が仕組んだドッキリなんでしょう?
抱き合う二人に見入っていると、私の存在すら忘れたカレシは彼女の肩を抱いて立ち去った・・・。
瞬きすら忘れていたことに気付いた私。
目が、目が乾ききって痛いんですけど・・・。
そんな私の上に、雨粒が舞い落ちて来たの・・・。
肩を叩かれた。
振り返った私。
腰を抜かしそうになったわ。
だってそこにいたのは・・・
「ギャッ!!クマ?!」
気持ち的には3メートルは飛んだ感じ。
「な、なに?!驚かせないでよ!!」
サンタの格好をしたそのクマは、私の頭2つ分は高いから、小首をかしげるしぐさも可愛らしいとは言い難い。
後ろのケーキ屋の店先にテーブルを出し、ケーキが並んでいる。
「ああなるほど、ケーキを売ってるのね、ご苦労様。」
クマは身振り手振りで何かを伝えようとする。
「あのね、ケーキはもういらないの。食べる相手もいないの。予約しちゃってあるけど、キャンセルさせてもらうわ。」
クマのジェスチャーがいっそう激しくなる。
「ちょっと、ぜんぜん意味わかんないんだけど。」
クマ語なんて私知らないもの。
無視して行こうとすると、コートの襟を掴まれた。
「や、引っ張んないで!」
ファーが取れちゃう。これも買ったばかりだったのに。
私はよたよたと引っ張られる方向に足を出して、クマに抗議した。
「ケーキはいらないの。用済みなの。余っちゃってもったいないけど、他の人に売ってくれる?分かったわよ、お金は払うから!それなら文句無いでしょう?」
私の抵抗もむなしく、店内に押し込められる。
「どうぞ。」
クマは客用の椅子を引くと、私に座るよう促した。
「なんだ、喋れるんじゃないの。」
こうなったらこのクマさんに付き合ってやるか。
私がしぶしぶ座るのを確かめると、クマは店の奥からお皿に乗せたケーキを持って現れた。
「どうぞ。」
クマは私の前に座って、頬杖をついた。
「苦しくないの?取ったらどう?」
「いいから食べて。」
「・・・・・。」
クマに勧められて、フォークに手を伸ばす。
ぴりぴり。
ケーキを囲ってあるペーパーをなんとなく丁寧に取り外して、ど真ん中に乗ったホワイトチョコの飾りにフォークを突き刺した。
「あっはは。そっからいくんだ。」
「うるさいわね、どこからだっていいでしょう?」
「ごめんごめん。」
チョコはすんなりとのどを通る。
続けて本体へ。
ぱりっ。
コーティングされたチョコが、音を立てて割れた。
「ふうん。」
いちいち反応しなくても。
私が口に含むのを見て、クマは覗き込むように首をかしげた・・・と思う。
「どう?」
「・・・美味しい。」
「良かった。」
クマはほっとしたように息を小さく吐いた。
「それ、俺が造ったんだ。」
「へえ、あなたが。」
すごく美味しい。
ごく普通のチョコケーキに見えたけど、フランボワーズの酸味が利いてて、チョコの甘みと相性バッチリって感じね。
上に添えてある控えめなクリームが絶妙。
このチョコ、どこかで食べたことあるような味だけど、良くあるものなのかしら?
「うん、美味しい、すごく。」
甘いもの食べると、ほんとに幸せになれるね。
私、クマに向かって笑いかけた。
「ありがとう、こんなに美味しいもの、造ってくれて。」
心から、感謝した。
「ふう~、やっぱ脱いでいい?」
突然クマは立ち上がり、首をコキコキと鳴らした。
「だからさっき言ったじゃないの。脱げば?」
よっこいしょ、とオヤジみたいな口調で両手を両耳の辺りに当てて、ずずず・・・と首を引っ張り始めた。
私は手を止めて、じっとその姿を観察したわ。
こんな日に、クマなんか被ってケーキ売ってるんだもの。
悪いけど、どうせたいした顔じゃないわ・・・よ・・・ね?
「ふわ~~、あちい。冬でもきついなこりゃ。あれ?どうしちゃったの?手、止まってるよ?」
ついでに口も、いえ、身体全体が、でしょう?
「あ、あの、あなた・・・。」
「どれ?あんまり美味しくなかった?君が好きそうなの、入れてみたんだけどなあ・・・。」
不安そうに私の顔を見る。
いやっ、そんなに近寄らないで!
自分の顔がぶわっと熱くなるのが分かったの。
「あれれ?すごく驚いてる?」
「そりゃ、もう、その・・・。」
「何で分かるかって?だって、何度も来てくれたでしょう?うちの店に。一口食べるたびに、すっごくうれしそうな顔してくれて。俺が造ったケーキ、こんなに美味しそうに食べてくれるんだって、本当に嬉しかったんだから。」
彼の顔がキラキラして見えるのは、汗が光ってるから、だけじゃないよね?
「クマ・・・。」
「これ?うん、雑誌載っちゃったら、面が割れちゃってね。こうしないと仕事にならなくって。」
だけど私が予約したのは、ルミエールの・・・。
「ここ、俺の実家。親父の店。今はまだ修行中だから、ルミエールで働いてるの。いつかここに帰ってきて、この店をおっきくしてみせるからね。」
だからまた、食べに来てよ。
彼はそう言って、私の頬に触れた。
「チョコ、付いてる。」
ぺろり、と指先を舐める。
「君の名前、教えてもらってもいい?」
私は予約票のお客様控えを差し出した。
END
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綾部 叶多
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