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超自己満足小説
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おずおずと差し出された小さな手を、そっと握り締める。
「一緒に、」
秋夜は右手にその柔らかなぬくもりを感じていた。
幼い瞳が戸惑いながらも見つめ返してくる。
秋夜はその手をキュッと握ると、微笑みを返した。
「家に帰ろう。」

*********************************************

「秋夜さん起きてください。もう3個目のアラームも鳴り終わっちゃってますよ。」
もぞもぞと布団の中でうごめく秋夜に、美郷は声をかけた。
「今朝はだいぶ暖かいですよ。早く起きて着替えたほうがいいと思いますけど。」
「・・・今・・・何時?」
「7時20分です。朝食食べてる時間ありますか?」
「・・・ある。」
早く来てくださいね、と言い残して、美郷は部屋を出て行った。

「目覚まし3つもかけてて、どうして起きられないんですか?」
茶碗にご飯をよそいながら、美郷は秋夜に話しかけた。
「・・・低血圧だから?」
「それは起きられない人の言い訳なんだそうですよ。ガッツンでやってるのを視ました。」
「余計なことを・・・」
人気TV番組の「ガッツン」を逆恨みしながら、秋夜は朝食を口に運んだ。
その間にも美郷はエプロンをはずして高校の制服に着替え、お弁当箱を鞄に詰め込んだ。
「今日は遅いですか?」
「いや、今日は比較的早く帰れると思う。」
「そうですか。相談したいことがありますから。」
「ああうん。」
朝の情報番組に気をとられていた秋夜は、上の空で返事をした。
「それじゃ、行ってきます。お母さん、行ってくるね。」
母の遺影にも声をかけ、美郷は出て行った。
「いってらっしゃ・・・って、もういないか。」
空いた皿をキッチンへさげてから、秋夜も家を出た。


17年前のこと。
ある日突然、未婚であったはずの姉が、小さな赤ん坊を連れて帰ってきた。
「私の子。美郷っていうの。おじちゃんよろしくね。」
初めて間近で見る赤ん坊と、小学校6年生でおじちゃんと呼ばれたショックで、秋夜は言葉をなくした。
「美郷ちゃん、この人が秋ちゃんですよ~。ママの弟です~。よろしくね~~。ほらあんたもよろしくしなさい。」
夏南は赤ん坊を秋夜の目の前に突き出した。
なにこれ、どういうこと?
混乱した頭で、秋夜はその小さな手に指先でそっと触れた。
・・・やわらかい・・・。
ほっぺもふにふにだ。
まるで、全身肉球みたいにやわらかい・・・。
「ねえちゃん、どうしたんだよこの子。」
「だから、私の子だって言ったでしょう?」
夏南はあっけらかんとした口調で答えた。
「聞いてねえよ。」
「言ってないもん。」
途端に、赤ん坊が愚図りだした。
「ほらもう、おじちゃんが大きな声出すから~~。」
ミルクを作ってくるから、と言って、夏南は美郷を抱いたままキッチンに向かった。
秋夜はそれを、まだ呆然としたまま見送った。

夏南が赤ん坊を連れてきてから数日後、両親ともめた夏南は、勘当同然で家を飛び出した。
以後女手ひとつで美郷を育てていたのだが、その姉が過労のためか風邪をこじらせた挙句の肺炎であっけなくこの世を去った。
その時美郷は11歳。
秋夜は就職が決まり、美郷があと数ヶ月で中学に入ると言う時期だったので、姉の残した財産である分譲マンションに秋夜が越して、美郷と二人で暮らすことになった。
その生活が、今年で6年目になる。


姉のまねをして「秋ちゃん」と呼んでいた幼い少女は、いつからか自分のことを「秋夜さん」と呼び、敬語で話をするようになった。
その変化をなんとなく寂しいと思うのは、姪というより愛娘のようにかわいがってきた叔父ゆえか。
珍しく美郷より先に帰宅していた秋夜は、「ただいま」と声の聞こえたほうへ目を向けた。
「ずいぶん遅いな。寄り道か?」
「友達と、食事してきたんです。」
「友達?」
TVの音が耳障りだったので、音量を落とした。
「友達って、男とか?」
「違いますよ。」
「なんだそうか。そうだよな、美郷にはまだ早いだろ。いや待てよ、今時の高校生なら・・・ぶつぶつぶつ。」
独り言を言い始めた秋夜を放置して、美郷は自室へ向かった。
もうすぐ18歳になるというのに、まじめそうな美郷とは色恋の話をしたことがない。
叔父フィルターがかかってるとはいえ、第三者から見ても、美郷は一般的にかわいいといわれるくらいの容姿だと思う。
物事に動じない無表情と冷たい口調が災いしているのか。
もっとも、「彼氏ができた」などと言われてしまった日には、発狂してしまいそうなのだが。
姪でさえこんなにかわいく愛おしく思うのに、我が子だったらどうなってしまうのだろう。
秋夜は自他共に認める叔父バカであった。
「寝てるときなんて特にかわいいんだよなあ・・・。」
「あの・・・秋夜さん、今ちょっといいですか?」
不意に声をかけられて、遠い目をしていた秋夜は慌てて我に返った。
「ハイなんでしょう、美郷さん。」
思わず姿勢を正した。
着替え終えてリビングに現れた美郷は、ソファに腰かけた秋夜の前に正座をして座ると、まっすぐな目で秋夜を見た。
「改まっちゃってどうした?」
「あの、進路のことですが。」
「・・・そっか、そんな時期か。」
美郷もそんな年頃になったんだな、と秋夜は再び遠い目をした。
「姉さんの残した貯金もあるし、美郷の好きにしていいんだよ。」
美郷が生まれる前に友人と会社を興していた姉は、美郷を育てるには十分のお金を残していた。
そのせいで、過労死したようなもんだけどね。
お金を残すより、美郷のそばにいてやったほうが、美郷の為になっただろうに。
時折、姉を恨む気持ちになったのは、いうまでもない。
「あの、K大に行きたいんです。」
「K大?またずいぶん遠いね。」
「もし受かったら、一人暮らしさせてもらえますか?」
秋夜は軽いショックを受けた。
この子が、家を出たいと言っている。
いったい何が不満だと言うのだ?
俺か?俺がいけないのか?
毎日俺を起こすことにうんざりしたとか?
それともアレか?
ひょっとすると美郷は反抗期なのか?
だとしたら、クールに見えてかわいいところもあるなあ、美郷は。
「あの・・・秋夜さん。」
秋夜は首を軽く振って、ショックから抜け出した。
「ああ、ごめんごめん。受かったら、の話だよね?」
「もちろんそうですが。」
「どうしてもそこに行きたいの?」
「はい。」
「通える範囲で行きたい所はないの?」
「・・・はい。」
秋夜は真剣な顔になってもう一度聞いた。
「どうしても、そこじゃないと駄目?」
「はい。」
美郷は目をそらないように瞬き一つしなかった。
根負けしたのは秋夜のほうだ。
「分かった・・・美郷がそうしたいなら。」
美郷は小さく「ありがとうございます」と言い残して、リビングから姿を消した。


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綾部 叶多
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非公開
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当ブログについて

はじめまして。
こちらは綾部叶多が管理する妄想小説ブログです。
管理人の萌えツボをひたすら刺激するためだけの話がおいてあります。
管理人はリアル生活において低血糖なため、糖度が若干高めになっております。
お口に合いますか存じませんが、よろしければどうぞご賞味くださいませ・・・。




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